大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(う)2420号 判決

本店所在地

横浜市磯子区杉田町一四八番地

有限会社 臨平商事

右代表者清算人

間辺平助

本籍

横浜市磯子区杉田町四三六番地

住居

同町一四八番地

旅館等経営

間辺平助

大正四年一二月二五日生

右被告人ならびに被告会社に対する各出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反、法人税法違反被告事件について、昭和四六年三月一六日横浜地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、原審弁護人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検事野村幸雄出席のうえ審理をし、つぎのとおり判決する。

主文

原判決中、被告人間辺に関する部分ならびに被告会社に対する判示第二の罪に関する部分を破棄する。

被告人間辺を懲役一年および罰金三〇万円に

被告会社を罰金一八〇万円に

処する。

被告人間辺が右罰金を完納することができないときは、金三、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人間辺に対し、この裁判の確定した日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

原判決中、被告会社に対する判示第一の各罪に関する控訴を棄却する。

原審における訴訟費用は全部被告人間辺と被告会社の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人桂秀威の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論に対する判断に先立ち、職権をもつて、被告人ならびに被告会社に対する原判示第二の事実について調査すると、原判決が右事実中、被告会社の事実の所得金額として判示する一八 七〇三、〇五〇円の中には、利息制限法一条所定の年二割の利率により計算した金額を超える未収利息三、〇二六、五八一円の含まれていることが認められる。しかしながら、右制限利率を超える未収利息が税法上の益金に該当しないものであることは、すでに最高裁判所の判例の示すところである(昭和四四年(あ)第二三八四号、同四六年一一月一六日第三小法廷判決、最高裁刑集二五巻八号九三八頁参照)。したがつて、これを原判示被告会社の実際の所得金額から除算すると、実際課税所得金額は一五、六七六、四六九円となり、正規の法人税額並びにほ脱法人税額は五、八五七、〇三〇円となる。それにもかかわらず、実際課税所得が一八、七〇三、〇五〇円、正規の法人税額並びにほ脱法人税額が、七、〇〇七、一四〇円であると認定した原判決は法人税法の解釈適用を誤り、ひいては事実を誤認したもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点において破棄を免れない(なお、未収利息、ほ脱税額の計算は別紙未収利息の計算内訳、修正貸借対照表、税額計算書のとおりである)。

つぎに被告会社に対する原判示第一の罪に関する量刑不当の論旨について判断するに、記録ならびに当審における事実取調の結果に徴しても、原判決の刑の量定が不当であると認めるべき事由は見出し得ない。論旨は理由がない。

よつて、原判決中、被告会社に対する原判示第一の罪に関する部分に対する控訴は理由がないから、これを棄却することとする。

原判決中被告会社に対する原判示第二の罪に関する部分および被告人間辺について、原判決は同被告人に対する原判示第一の罪と同第二の罪とを刑法四五条前段の併合罪とし、一個の懲役刑をもつて処断しているから、その全部について、それぞれ刑訴法三九七条一項、三八〇条、三八二条によりこれを破棄することとし、被告会社に対する原判示第二の罪ならびに被告人間辺に対する右第一、第二の各罪に関する量刑不当の論旨に対する判断を省略し、同法四〇〇条但書に従い被告人間辺ならびに被告会社に対する右法人税法違反の事実については、検察官が当審において変更した訴因にもとづき、さらに次のとおり判決する。

(当裁判所が新に認定した罪となるべき事実)

原判示第二の事実中、「同会社の真実の所得金額が少くとも一八、七〇三、〇五〇円でこれに対する法人税額が少くとも七、〇〇七、一四〇円であつた」とあるのを、「同会社の実際の所得額は少くとも一五、六七六、四六九円で、これに対する法人税額は五、八五七、〇三〇円であつた」と、「その差額七、〇〇七、一四〇円の法人税を免れ」とあるのを「その差額五、八五七、〇三〇円の法人税を免れ」とそれぞれ訂正するほかは原判示第二の事実のとおりであるから、これを引用する。

(右認定事実についての証拠)

原判決が、原判示第二の事実について摘示する証拠中、「一、被告人間辺平助の検察官に対する昭和三八年九月二〇日付(二通)および同月二四日付各供述調書」とあるのを、「一、被告人間辺平助の検察官に対する昭和三八年五月二〇日付(二通)および同月二四日付各供述調書」と訂正し、「一、被告人間辺平助の上申書二通」とある下に(但し、一通は有限会社臨平商事代表取締役間辺平助名義のもの)と付加し、「一、横浜銀行杉田支店長荒井徳三郎作成の預金元帳写証明書」とある下に「五通(福島孝作、間辺美佐子、岡田熊吉、小野寺辰雄、間辺平助名義のもの)」と付加するほかは、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。

(法令の適用)

原判決が適法に確定した事実および当審で認定した判示事実に法律を適用すると、被告会社の前判示法人税法違反の所為は昭和四〇年法律三四号付則一九条により、同三二年法律二八号によつて改正された法人税法四八条一項、および同二五年法律七二号によつて改正された同法五一条一項に該当するからその所定罰金額の範囲内で被告会社を主文第二項の刑に処し、被告人間辺の判示所為中、原判示第一の各罪は、いずれも、昭和四五年法律一三号による改正前の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律五条一項に該当し、前判示法人税法違反の所為は前記法人税法四八条一項に該当するから、原判示第一の各罪についてはいずれも懲役刑を選択し、右法人税法違反の罪については懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情重い前判示法人税法違反の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑については所定罰金額の範囲内で、同被告人を主文第二項の刑に処し、同被告人に対し、罰金の換刑処分につき刑法一八条一項を適用して主文第三項のとおり定め、なお、懲役刑については同法二五条一項を適用して主文第四項のとおりその執行を猶予し、原審における訴訟費用の負担については刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用して主文末項のとおり定めることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 三井明 判事 石崎四郎 判事 片岡聡)

〔別紙〕

未収利息の計算内訳

一、原判決挙示の証拠によれば、本件貸付の内容は一般の勤労者を対象とする一〇、〇〇〇円ないし五〇、〇〇〇円程度の小口の信用貸付であり、貸付期間一〇ケ月、利率は五割六分の約定で貸しつけ、これを元利均等割賦払の方法で回収していることが認められる。したがつて、未収利息の計算においては

(一) まず、当期(昭和三四年四月一日より翌三五年三月三一日までの事業年度)中に発生すべき貸付期間一〇ケ月に対応する約定利息(以下単に割賦貸付利息という)収入を計上し、これから、当期中の約定利息の実際の入金額を差し引いて、当期の割賦貸付利子未収金を算出した。

(1) 当期に発生すべき割賦貸付利息収入

前期から繰越された分 当期中の発生高 当期に発生すべき割賦貸付利息収入

8,661,096円十29,532,785円=38,193881円

(2) 当期に実際に入金のあつた割賦貸付利息収入

当期中に入金された利息 当期中に執行した利息 当期に実際に入金のあつた割賦貸付利息収入

22,321,263円+1,579,099円=23,900,362円

(3) 当期の割賦貸付利息等未収金

当期に発生すべき割賦貸付利息収入 実際に入金のあつた割賦貸付利息収入 当期の割賦貸付利息未収金

38,193,881円-23,900 362円=14,293,519円

(二) そして、右「当期の割賦貸付利息未収金」のうちには、割賦返済期日が翌期に到来する「期末未実現利益」が含まれているので、これを差引いて「期日到来分の未収利息」を算出した。

当期の割賦貸付利息未収金 期末未実現利益 期日到来分未収利息

14,293,519円-10,993,520円=3,299,999円

(三) さらに、右の「期日到来分未収利息」の中には、利息制限法所定の制限利率による未収利息と、右制限利率超過未収利息とが包含されている。そこで制限利率超過の未収利息を次のとおり算出した。法定制限利率による未収利息については貸付期間に対応する利息制限法一条所定の利率を乗じて算出した法定利息金額と、すでに当期中において約定にもとづいて現実に受入れた受取利息金額とを対比して、後者の金額が前者の金額に満たない場合は、その満たない金額とした。

期日到来分未収利息 法定制限利率による未収利息 制限利率超過の未収利息

3,299,999円-273,418円=3,026,581円

よつて被告会社の実際の所得金額は一四、六七六、四六九円となる。

原判決判示の実際の所得金額 制限利率超過の未収利息

18,703,050円-3,026,581円=15,676,469円

修正貸借対照表

有限会社 臨平商事

昭和35年3月31日

〈省略〉

税額計算書

昭和34年4月1日から昭和35年3月31日までの事業年度分

〈省略〉

昭和四六年(う)第二四二〇号

控訴趣意書

被告人 有限会社臨平商事

同 間辺平助

右の者等に対する出資の受入れ預り金及び金利等の取締等に関する法律違反、法人税法違反被告事件の控訴の趣意は次の通りである。

昭和四六年一一月二日

右弁護人 桂秀威

東京高等裁判所

第一三刑事部 御中

原判決は刑の量定が不当である。

一、原判決は被告人有限会社臨平商事を本件出資の受入れ預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の罪につき罰金二〇万円に、法人税法違反の罪につき罰金二〇〇万円に又被告人間辺平助を懲役一年六月(但し三年間執行猶予)及び罰金三〇万円にそれぞれ処する旨の判決を云渡した。

しかし乍ら以下述べるが如き情状に鑑みるときは右判決は重きに失し不当である。

二、先ず出資の受入れ預り金及び金利等の取締等に関する法律違反について云えば、被告人は法律的知識もなく只同業者が従来行つてきた貸付並びに返済方法をそのまま真似て本件起訴事実通りの貸付契約を締結したもので、特に公正証書作成費用は同法に云う金利には当らない従つて日歩三〇銭をこえる利息の約定はしていないと信じていたものである。

三、勿論日歩三〇銭といえども利息制限法の制限をはるかに超えた高金利であるが、被告人会社の如く無担保で不特定極めて多数の人を対象として一件当りは少額の金融を業として営む場合の回収不能となる危険は極めて大なるものがあり、これを企業として維持してゆくためにはある程度の高金利をとることも止むを得ない面を持つている。現に大衆はたとえこのような高金利を支払つてでも、無担保で信用調査もせず即時に金を借りられる機関を必要としているからこそ被告人会社も営業がなし得るのであり、その社会的有用性を考えれば一概に高金利の故を以て非難すべきではない。

四、更に被告人等の場合公正証書作成費用を債務者から収受したことが日歩三〇銭を超えることとなつたものであるが右収受した金員は事実ことごとく公正証書作成費用として費消せられ何等被告人等の利得とはなつていないのである。

五、次に法人税法違反については、被告人会社は昭和三五年四月二七日前記事件の嫌疑で神奈川県警の家宅捜索を受け帳簿其他書類を押収され、法人税の確定申告期限たる同年五月三一日にも未だ右書類が押収せられたままであつたのみならずその間被告人間辺並びに被告人会社の経理担当者は殆んど連日取調べのため警察に出頭を命ぜられ申告期限までに確定申告書を提出することは事実上全く不可能な情況にあつた。

同年六月一六日に押収書類の一部は還付されたが重要な書類は未だ押収を解かれず勿論正確な申告をすることはできないため窮余の策として同年七月一三日に至り赤字二〇万七円の確定申告書と申告の延期願い並びに書類が押収せられている旨の県警の証明書を添付して南税務署に提出したのが本件法人税法違反となつたのである。

もとより正確な申告ができないならば、虚偽の申告をするよりはむしろ無申告でおくべきだと考えるのが正論であろうが被告人間辺の如く法に無知な庶民の感情として申告をせずに放つておくよりも形だけでも申告書を提出しておいた方がまだしも税務署の心証を害さずにすむと考えたこともうなずけるものがあるのである。

六、又被告人会社の如き営業形態では税法上貸倒れ損金と認められない貸付の中にも一件一件が小口であるだけに費用をかけてまで取立てのできない事実上取立不可能の事態が発生する場合の多いことは容易に推測しうるところであり帳簿上の所得と現実の利益との間に多大の開きがあることも情状として参酌せらるべきである。

七、最後に本件全般に関する情状として被告人会社は更正決定により多額の法人税を賦課された外これに伴う重加算税、事業税、住民税等の追徴又長期間にわたり貸付関係の書類が押収されていたためその間の債務者等の退職、転居等により滞納分の取立が実効を収め得なくなり加うるに被告人会社が法の摘発を受けたことが新聞等に報道されたことから債務者等の任意弁済の成績も低下しこれらの原因から被告人会社は倒産に立至つた。

八、被告会社は会社とは云え実質的には被告人間辺個人が零細な資金を元手に長年粒々辛苦して築き上げたものでこの会社が倒産したことは被告人間辺にとつても物心両面でも大打撃であり、この意味において被告人等に対する懲戒という刑の目的は既に達成せられている。

以上の情状より見るときは原判決の量刑は重きに失し不当であると信ずる。

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